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大阪・関西万博に「未来の鮨屋」が出現!? 100歳の鮨職人が見つめる未来

ミライのイケス編集部

今年4月に開幕した大阪・関西万博。158の国と地域、7つの国際機関が参加し、10月までの半年間、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマにさまざまな展示やイベントが楽しめる。続々と“行ってきた報告”がSNSに投稿されるなか話題を集めているのが、食をテーマにしたシグネチャーパビリオン「EARTH MART」にある「未来を見つめる鮨屋」だ。

未来の鮨屋には、どんなネタが並ぶ?

まるで本当に目の前で握っているかのような存在感

「未来を見つめる鮨屋」は、伝統技術と最新技術の融合を体現したコンセプト展示。江戸前の鮨文化を代表する「すきやばし次郎」の創業者で、今年100歳を迎える、まさに伝統を守ってきた鮨職人である小野二郎さんが、最新技術を用いて品種改良された“未来の魚”を握る。

木札に目をやると、ずらりと並ぶのは「アニサキスフリー真鯖」、「アレルゲンフリーエビ」といった品種改良によって魚食にまつわる課題を解決するネタや、「プリン体ゼロ白子」、「小骨なし穴子」といった夢のようなネタ。「こんな魚があったらいいな!」と、見る人の想像を掻き立てる。

展示に技術協力を行ったリージョナルフィッシュの梅川忠典代表は「野菜や果物、牛や鶏など、普段わたしたちが食べているものの多くは品種改良されていますが、魚はまだ品種改良がほとんどされていません。それゆえ改良の余地も大きいのです」と語る。

カウンターの裏には、品種改良された魚たちが泳ぐ水槽が展示されており、マダイ、ウニ、エビ、ヒラメを見ることができる。

伝統と革新がともにする「魚のおいしい未来」への想い

「未来を見つめる鮨屋」が展示されるフロアの大きな裏テーマは、“食の知の共有”。食にまつわる最新技術や、古来から日本で受け継がれる伝統技術が集結している。

魚食の未来につながる“食の知”の展示企画にあたり白羽の矢が立ったのが、リージョナルフィッシュが開発する“品種改良された魚”だった。

水槽の中を悠々と泳ぐ、品種改良をした未来のマダイ

海洋資源を把握し、適切な量を漁獲することも必要だが、“地球沸騰化”ともいわれる急激な海水温の上昇が続くなかで、持続的においしい魚を確保するためには、環境に適応した品種の開発や養殖技術の進化が欠かせない。「タンパク質クライシス(危機)という言葉がありますが、その根源に人はおいしいものを食べていたいという想いがあります。おいしいものが肉や魚というタンパク質であることが多いのです。だから、これから品種改良されていく魚も、やっぱり環境に適応するだけでなく、おいしくなければならないと思います」そんなリージョナルフィッシュの梅川代表の想いに賛同し、普段は天然魚しか握らないという「すきやばし次郎」の小野二郎さんとのコラボレーションが実現した。魚と鮨の未来を別の視点から憂い、考えるふたりの出会いは、必然だったのかもしれない。

100歳の鮨職人が見つめる未来

小野二郎さん(右)と息子の小野禎一さん(左)

2025年10月に100歳を迎えられる小野二郎さんは、25歳からつい数ヶ月前まで現役の鮨職人として板場に立っていた。地球規模の海水温上昇で漁獲環境が大きく変わっても、“おいしい魚を食べ続けたい”という人々の想いは変わらない。おいしい鮨を届け続けるために、未来の鮨職人はどうあるべきか? 二郎さんはこう考える。

「未来を見つめる鮨屋」撮影の様子

「これからは養殖をやらないともう間に合わないと思いますよ。海水温が上がり、世界中の海がどんどん変わってきています。旬もずれていますから、そのときに旨いものを出さないとなりません。これからの職人は、ちゃんと考えて、より一層の努力をして味を仕上げなくてはならないから大変です」

気候変動に強いヒラメやアニサキスフリーのサバなど、新しい技術によって誕生した品種改良魚

さらに、小野二郎さんの息子であり「すきやばし次郎」店主の小野禎一さんは、「もともとがバッファローや猪、野鳥だったのが、今は牛や豚、鶏になっておいしく食べられている。魚の養殖業界の技術が同じようなレベルになれば問題なくなるのではないかな。食材の良さをより良く、もっとおいしくするのが職人の技だと思いますね」と続けた。

変化を嘆くばかりではなく、新しい選択肢に目を向け、職人としておいしさを届けるための進化を怠らないこと。伝統を守るとは、常に変化に対応し更新し続けることなのだ。「EARTH MART」プロデューサーの小山薫堂さんは「鮨はすでに世界中の食べものになっていますが、たとえば海のない国でも新鮮な魚が食べられたり、アレルギーをもった人でも食べられたりと、本当にいろんな方がより楽しめる鮨が未来に広がっていくのではないかなと思います」と語る。職人の技と新しい技術が手を取り合うことで、わたしたちの大好きな食文化であるおいしい鮨が守られ、発展していく。そんな未来への希望と、技術革新への期待は高まるばかりだ。

大阪・関西万博は2025年10月13日(月)まで開催中! ぜひ一度、“魚のおいしい未来”を感じに、「未来を見つめる鮨屋」へ足を運んでみてはいかがだろうか。

ミライのイケス編集部

地域の水産事業者、アレルギーをはじめとする魚食に課題を抱える方、料理人、研究者など多様な人々が集い、あらゆる視点から“魚のおいしい未来”について考えるウェブマガジン。