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崎陽軒「シウマイ弁当」“変わらない”おいしさの秘密は、“変わり続ける”こと!?

株式会社崎陽軒
マーケティング本部R&D室 室長 津久井瞳

崎陽軒のおいしさは看板製品である『シウマイ弁当』をはじめ、多くの海産物によって支えられているという。気候変動による海水温の上昇や水産資源の減少が危惧されるなか、崎陽軒は最先端の技術を活用し社会課題を解決する魚の品種改良を手がけるリージョナルフィッシュと手を取り合い、新たな挑戦を始めている。“魚も人もハッピーな未来”を実現するために、今できることとは何か。株式会社崎陽軒 R&D室の津久井瞳さん、リージョナルフィッシュ株式会社 経営企画部の古賀夢乃さんが語り合う。

意外!? シウマイの味の決め手は

古賀さん:崎陽軒さんといえば、『シウマイ弁当』!出張のとき、新幹線や飛行機のなかでいただくことも多いです。おかずの種類も豊富だから、「どの順番で食べようかな?」と考えるのも楽しみなんですよね。

津久井さん:ありがとうございます。『シウマイ弁当』のおかずは、『昔ながらのシウマイ』5粒と、鮪の漬け焼き、蒲鉾、鶏の唐揚げ、玉子焼き、筍煮、切り昆布に千切り生姜、それからお口直しのあんず。どのおかずも、『シウマイ弁当』を完成させるために欠かせない存在です。

古賀さん:シウマイというとお肉のイメージがありますが、おかずには魚介類もたくさん使われていますね。

津久井さん:そうなんです。和食にとって焼き物にあたる魚はとても重要ですし、海産物は季節感を演出するうえでも欠かせません。季節限定のお弁当や松花堂弁当などでは、秋鮭や赤魚、鯛、穴子など、旬の魚を味わっていただけます。それから、実はシウマイにも、海の恵みが必要なんですよ。崎陽軒のシウマイには、干帆立貝柱がふんだんに使われているんです。

古賀さん:帆立のうまみが、あのおいしさの秘密だったんですね……

津久井さん:ふふふ。シウマイの材料は、豚肉、干帆立貝柱、玉ねぎ、グリンピース、それから調味料だけ。シンプルだからこそ、食材一つひとつのおいしさが物を言います。

おいしさを未来につなぐために、今できること

津久井さん:『シウマイ弁当』の発売は、1954年。長く愛され続けるおいしさを守り、届けていくことが、私たちの使命だと考えています。でも、おいしさを作るのは、調理技術だけではないんですよね。まず何より、良質な食材がなくては始まらないし、冷めてもおいしい秘訣である経木のお弁当箱も大事です。そう考えると、漁業や農業を取り巻く環境を守り、よくしていくことも私たちが真剣に考えるべきことだと思っています。

古賀さん:気候変動の影響で、日本近海の海水温はここ100年で1.2度も上昇しています。魚は「変温動物」といって、自分の体温を周囲の水温に合わせる生き物なので、水温がたった1度変わるだけでも、人間が気温の変化を10度感じるのと同じくらい、大きな影響を受けてしまいます。海の生き物にとっては、1.2度の海水温上昇はものすごい変化ですよね。今まで暮らしていた海域では生きづらくなって、生息域を移動したり、数を減らしてしまったり……さまざまな変化が起きています。

津久井さん:昨年は、海水温の上昇でホタテの稚貝が全滅するという、ショッキングなニュースもありました。また、これまでほとんど獲れなかった魚が大量に水揚げされるようになり、戸惑う漁業関係者の声も聞いています。

古賀さん:長い時間をかけて、その地域の海の環境に合わせた漁法や加工、流通の仕組みがつくられていますから、「獲れる魚を獲ればいい」という単純な話ではないんですよね。

津久井さん:そうなんです。こうした厳しい環境を考えると、海の環境を守ることに加え、変化する環境に適応できる魚を育てる、ということもひとつのアプローチだろうと思います。そうした新しい視点に気づくきっかけとなったのが、リージョナルフィッシュさんとの出会いです。

古賀さん:とあるイベントで弊社代表の梅川の講演を聞いていただいたのが、きっかけでしたね。

津久井さん:未来の食卓を守り、持続可能な水産業を目指す姿勢に強く共感して。「私たちももっと勉強していかなければ」と思いを新たにしたことから、今回の協業につながりました。リージョナルフィッシュさんの研究で、海水温が高くてもストレスなくのびのび育てる魚介類が生まれれば、それが巡り巡って私たちが届けたいおいしさを守ることにもつながっていくのかなと期待しています。

古賀さん:海水温の上昇は、魚介類にとって大きなストレスです。水温が高い環境で生き抜くために、余分なエネルギーを消費し、その影響で身がパサついたり、魚体が小さくなったり、寿命が短くなってしまったり……。これは、海上の養殖場でも同じで、厳しい夏をいかに乗り切るかは、養殖業者の方々にとっても大きな課題なんです。この課題を解決することで、おいしい魚をリーズナブルに楽しめる未来につなげていきたいと考えています。

魚介類にも新しい選択肢を

古賀さん:野菜やお米などでは、環境に合わせた品種改良が長く行われてきましたよね。お米は北海道から沖縄まで、全国47都道府県で栽培されています。私たちは、魚介類においても養殖や品種改良の技術をうまく活かすことで、安定供給や選択肢を増やすことにつなげていけたらと考えています。品種改良による変化は「自然界で起きうるものに限ること」がリージョナルフィッシュの基本方針です。

津久井さん:水温が高くても元気に過ごせる魚同士を交配して、高温耐性を高めるというような考え方ですよね? シウマイに欠かせない豚肉も、肉質のよい豚をかけ合わせることで、各地のブランド豚が生まれてきた歴史があります。魚介類でも、同じようなことが可能だということですね。

古賀さん:まさにその通りです! 人間の力を少し加えて、自然界に起きる変化をスピードアップさせ、効率化させていくイメージです。

津久井さん:自然の法則を壊さない技術を使って、海を守り、おいしい魚介類を育てる。リージョナルフィッシュさんのビジョンは、強く共感するところです。変わらないおいしさを守るために、変えるべきことは変えていく。そのバランスが大事ですよね。

シウマイ100周年に向けた、未来への第一歩

津久井さん:崎陽軒のシウマイは、2028年に発売100周年を迎えます。発売以来、シウマイの材料はずっと変わりませんが、味つけや豚肉の脂分の配合などは素材の変化によって少しずつ変わっています。食材の持つ味わいも、100年前と今とでは違うはずですから。でも、お弁当を開いたときのうれしさやおいしさの記憶は、きっと変わらないものだと思っていて。長年愛されてきたこの味を守るためにも、今、新しい挑戦を始めるときだと考えています。

古賀さん:自然への敬意を持って、安全、安心、魚介類の本来の味わいおいしさを守ること。研究を重ね、環境に適応し、誰もがリーズナブルに口にできる魚介類を安定的に供給できるようにしていくこと。研究者だけではこのビジョンは実現できなくて、やはり崎陽軒さんのような食のプロフェッショナルをはじめ、いろいろな人の知見を結集させることが必要です。いよいよ次なるスタートラインだと、私たちもワクワクしています。

津久井さん:ときには取っ組み合いのディスカッションもあるかも(笑)? でもそれは、目指す未来像を共有し、真剣に考えられるからこそですね。変わらない『シウマイ弁当』を届けていくための新しいチャレンジ、これからどうぞよろしくお願いします!

津久井瞳さんの考える、魚のおいしい未来

魚も私たち人間もハッピーな未来をと考えたとき、真っ先に頭に思い浮かんだのは気持ちよく泳ぎ回る魚の姿です。魚が魚らしくのびのびと育ち、ストレスなく成長した魚が私たちの食卓へと届く。そんな未来が実現できたらすてきですよね。おいしいものを食べると、自然と感謝の気持ちが湧き上がるもの。よい環境で元気に泳いできた魚の命を、感謝していただき、笑顔で「ごちそうさま」ができる。そんな未来を守るために、今できることをひとつずつ積み重ねていきたいです。

古賀夢乃さんの考える、魚のおいしい未来

地域の産業や文化に根ざした水産業を守り、育てていきたいですね。その地域ならではの魚が獲れ、人々が喜んで食べることで、地域が潤い、活性化する。そんな好循環ができたら、魚の未来はきっと明るい! そのためにも、漁業関係や養殖業の方々はもちろん、崎陽軒さんのような食のプロフェッショナルの知見もたくさんもらいながら、開発をすすめていきたいと考えています。

津久井瞳

株式会社崎陽軒 マーケティング本部 R&D室 室長

シウマイ製造の管理部門にて、豚肉の仕入れや品質チェックなどに携わったのち、2014年に立ち上げられたR&D(研究開発)室へ。崎陽軒のシウマイやお弁当によく合う「崎陽軒のお茶 釜炒り茶ブレンド」の開発や、米粉を使ったグルテンフリーのスイーツを展開する「HB Style KIYOKEN」の製品開発や店舗づくりなど、新製品やサービスの開発に取り組む。

古賀夢乃

リージョナルフィッシュ株式会社 経営企画部 マネジャー

リージョナルフィッシュでは、事業開発や研究成果の事業化推進を主に担当。前職のアーサー・ディ・リトルにて、バイオ技術・医薬領域を中心として新規事業や研究開発戦略に関する経営コンサルティング業務に従事。学生時代は脊椎動物の形態形成の研究に取り組んでおり、ゲノム編集を用いたゼブラフィッシュの実験経験も持つ。